せき宮

山本実紀さんの「繕いこま」

   

「繕(つくろ)いこま」をご紹介

母は夕食後、繕いものが日課になっています。一日の終わりに心が落ち着
く愉しい時間のようです。
ごくまれに、私も並んで参加してみるものの、仕上がりがいま一つ。しば
らくそんな思いでいたところ、「繕いこま」を知り、なるほどこれはいい、
と感心してしまいました。こまの膨らみに布を当てることで縫い易くなり、
縫い目が安定しきれいに仕上がるという訳です。

羊と共に岩手に暮らす、ウール作家の山本実紀さん企画の商品。
手仕事を生業とする山本さんが、よりよい使い心地を追求したものです。
握り心地、手触り、程よい重さなど、木工作家さんと色々な素材、形状な
どの試行錯誤を重ね、素材は「栃(トチ)」でこの形に収まりました。

こんな風に使います。実際は手に握り、膝か机に乗せて固定し縫っていき
ます。握り具合が丁度よいです。真ん中のくびれが握り易さのポイントで
す。直径 5.5㎝ ほど。

 

ここで、羊専門の季刊誌に掲載された山本さんの記事をご紹介します。
この「こま」が出来るまでの思いが綴られています。

繕い「こま」とウールの仕事
工房はらっぱ・羊&カントリーヘッジ主宰 山本実紀

2年前のこと、古道具を扱うお店で木製の「こま」を手にとった。中近東
あたりのもので、糸巻きと聞き、「そうかな?」と思いつつ購入。その冬、
スウェーデン製のやはり古道具で繕い用の木製きのこ型を友人からいただ
いた。「電球を靴下の中に入れて靴下を繕った」という話は映画のなかで
だったか、聞いた記憶はあるが、日本には繕い用の道具は存在してないと
思う。
ウールの靴下(サフォーク靴下)を企画して、気がつけば20年以上になって
いた。紡績や靴下工場が何度か替わったのは、ほとんどが工場側の都合だ
ったけど、少しでも履き心地の良いものに、長く履ける靴下に…と試行錯
誤を重ねてきた。けれど、摩擦によるウールの摩耗は、履き心地を優先す
ればどうにもできず、いまに至っている。
東北の古民家で暮らす私には、サフォーク靴下の断熱効果のような温かさ
がなくてはならない。穴が開いても、繕いながら履き続けているが、穴開
き靴下はたまっていた。スウェーデン製のきのこ型で繕ってみると、穴を
安定させることができ、運針がスムーズ。テーブルに置いてあった木製の
「こま」にふっと目がいく。ただ置いてある姿もかわいいけれど、もしか
して…と靴下の中に入れてくびれた真ん中を握る。手に収まり、安定感は
格別。トルコなど特徴的なウール靴下があるところで繕い用の道具だった
かな…と空想は広がり、セーターなどの繕いもしてみる。使い心地良く、
「繕いこま」として紹介しようと想いがふくらむ。
お椀などの木地を挽く木工作家に、いくつかの樹種で試作してもらった。
樹種や樹の部位により手ざわりや重さが微妙に違う。天然素材の道具は、
使っていくことで色合いが変わり、自分の道具になっていくのも楽しみだ。
ウール靴下を企画する私が、繕い道具も企画する。穴の開かない靴下を作
れない言い訳のようだと思いながら、20年以上経つというのに初のカタロ
グ制作も考え中。薄くなってきたところを「ちくちく」縫っておくだけで
気持ちが違うこと。道具一つあるだけで、繕い仕事が気軽に、愉しくはか
どり、そしてまた創造的な手仕事であることも実感していただきたく。

以上、「シープ ジャパン」 No.102  2017.7 より

 

「こま」には巾着(裏地付き)、ウール糸3種、毛糸針(フェルト化させた端
切れ付)が付いています。どれも布の仕事をする山本さんの元に、縁あって
集まった素材や、山本さんが紡ぎ染めた糸など。
巾着の生地は色々、縫製方法必見。シンプルにきれいに、縫い方の工夫が
詰まったデザインです。
布を使い継ぐ思いが込められており、「繕う」をキーワードに、添えて頂
きました。

靴下がきっかけで作られたものですが、あらゆる素材の布でお使い頂けま
す。他に、ワンポイントの刺繍にもご活用頂けます。
1セット ¥3500+税