せき宮

藪な庭

   

p1010976
実生と書いて、みしょう と読む言葉があります。
花木の増やし方の用語で、種から発芽したものを指し、
挿し木、株分けなどに対して使う言葉なのだそう。

店の庭。
こんな小さな庭でも、夢や希望を思い描いてあれこれ植えてみたものの、
17年経った今、見渡せば植えた覚えのないものに覆いつくされてしまっています。
自然に生えてきたものの方が生命力は旺盛です。
「実生」のものは、自らの環境に合った場所で発芽しており、
野放しでも病気にもならず、丈夫に育つようです。

庭からは常に色々なものが実生で現れますが、あきらかに雑草ではないものは、
その木が何者か判るまで見届けます。しばらくして、花や実でその正体が判ります。
野ばら、ガマズミ、アケビ、野ぶどう、梅もどき…
その多くは、3年くらいで花が咲き、実を付けます。
ここで思い出すのが、桃栗三年柿八年。
色々な意味が込められている言葉ではあるようですが、
早いものでは3年で実を付ける、と読み変えて理解しています。

さて、この木の種は一体どこから来たものか…。
犯人は、野鳥です。いや、鳥のせいにしてはいけませんね。私にも心あたりがあります。
店で活けて十分に楽しんだ花木は、細かくして庭に撒きます。
生ゴミににするのが嫌で、腐葉土にしています。
種や実が混っていたのでしょう。
どおりで、好みのものばかりが生えてくるはずです。今年も店内に活け、十分に楽しませてくれました。
一部は冬鳥のために切らずにあります。

岩手山麓に暮らす漆器作家の東北巧芸舎・佐藤勲さん時子さんご夫妻は、いつも丁寧な器を届けてくださいます。
毎年届く、手製の味のある版画の年賀状に添えてあった一節、
手入れの行き届いた雑木林の中に住まいしていながら、こうありました。
「庭は、野鳥のためと称してヤブにしております。」
いい言い訳がみつかりました。